健康とQOLを軸としたスポーツの社会貢献を研究

▲同研究科委員長を務める大西祥平教授などが教鞭を執る、「運動生理学・バイオメカ」の授業風景。

多様化する健康ニーズに応える人材育成を目指す

佐野毅彦准教授▲佐野毅彦准教授は、Jリーグでの勤務経験も。専門は、スポーツマネジメントおよびスポーツマーケティング。

慶應義塾大学が2005 年4 月に開設した「大学院 健康マネジメント研究科」は、保健、医療、福祉の分野において、先導的な役割を担う人材育成を目指している。少子高齢化、疾病に対する人々の意識の変化、医療技術の高度化などにより、これからも国民の生活と健康にかかわる価値観が多様化し続けることは確実だ。そうしたなか、すべての人々が、人生をもっと楽しく生きたいという願いを持つならば、その要請はさらに複雑化していくだろう。

そこで同研究科ではまず、「健康」と「マネジメント」を新しい視点でとらえ直すことからスタート。「健康」=“身体的・精神的・社会的に完全な状態”ではなく、誕生から死に至るまで変化していく“健康状態の諸相”を意味する概念とし、個人とシステム・組織への「マネジメント」を、いずれか一方ではなく、両者は互いに必要不可欠な性質のものという概念としてとらえ直している。

同研究科の「看護・医療・スポーツマネジメント専攻」には、「看護学専修」「医療マネジメント専修」「スポーツマネジメント専修」と、3 つの専修がある。さまざまな専門領域、職務経験を持った学生が集まることを想定し、医療系学部出身者には社会学に関して、非医療系学部出身者には医療に関して、基本的な考え方を学ぶ機会を用意。そのうえで「健康マネジメント」に不可欠な共通の論理的分析手法を習得する教育している。健康にまつわるエビデンス(科学的根拠)を軸とした新しい知見、啓蒙の材料や体系を発見・提示する力を身につけてほしいのだという。また、総合大学ならではの学際的な教育・研究が受けられることも、大きなメリットといえるだろう。

インターシップによる、課題研究論文で自分探し

同研究科、スポーツマネジメント専修の選任教員である佐野毅彦准教授に話を聞いた。

「趣味や気晴らしの要素が強かったスポーツですが、健康維持や体力づくりのために取り入れる人が急増しています。新しい社会デザインが求められるなか、どうすればクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を高めることができるのか。その大前提として、心身の健康は不可欠です。そう考えたときに、スポーツにはどんな貢献ができるのか。ここを研究していくことが、スポーツマネジメント専修の醍醐味であるといえます」

医療、看護など、メンタリティの異なる学生が同研究科に集っていることも、個々の視野を広げる助けになるのだという。また、専修が3 つに分けられているが、それぞれの専門科目を履修できる自由度もある。

「講義科目はかなり充実していますが、演習科目として、インターンシップを通じた課題研究論文の作成も行います。学生の希望を聞きながら、研究に最適な研修現場を紹介。非常勤講師にはスポーツ関連ビジネスの第一線で活躍する方々が多数いらっしゃいますし、慶應義塾大学が培ってきたルートもどんどん活用していきます。過去のケースでは、Jリーグ(日本プロサッカーリーグ)、西武ライオンズ球団、神奈川県体育協会、神奈川県立体育センターなどでの研修実績があります。そして、修了後の進路としては、大学教員や研究員、地方議会議員、プロスポーツ関連組織、民間企業などさまざま。2007 年に開設した後期博士課程に進み、さらに高度な研究に取り組む学生もいます」

佐野准教授はこうも語る。エンタテインメント性の高いプロスポーツは、ビジネス規模でいえばまだまだ小さな存在。スポーツ産業全体を俯瞰して見ると、さまざまな業界の企業、組織が支え合うことでひとつの産業として成り立っていることがわかる。これからも健康という視点でスポーツ産業をマネジメントしていけば、市場発展のための新たなチャンスがいくらでも見つかるはずだ、と。

「スポーツ界を取り巻く法律や政策などをしっかり把握し、人々のQOL 向上の道を切り開いていく人材の育成が求められています。ここでさまざまなバックグラウンドを持った多様な学生と交流しながら、健康・スポーツ関連の諸機関や諸企業のマネジメントを研究・企画・実践できる能力を身につけてほしいですね」

例えば、2007 年からJ リーグが厚生労働省と連携して「J リーグ介護予防事業」をスタートさせている。 人々のQOL 向上にけるスポーツの貢献可能性とマーケットは、未曾有に広がっているのだ。

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※学校情報は、2009年取材時のものです

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