【フィットネスクラブ】高齢化と健康志向の高まりを背景に中長期的な成長を目指す/江戸川大学社会学部経営社会学科・准教授 澤井和彦

2008年11月24日

業態の多様化が進むフィットネスクラブ

 フィットネスクラブは1990年代前半のバブル経済の崩壊から2002年の景気後退期に企業の淘汰と再編が進み、2003年には業界全体の売上高がプラスに転じて施設数も増加する一方、女性専用の小規模サーキットトレーニングジムや、ホットヨガやピラティスなどの単体店、パーソナルトレーニングや加圧トレーニングを主体にする成果志向型ジムなど、業態の多様化が進んでいる。さらに、2003年の地方自治法改正によって公共施設の民間委託ができるようになると(指定管理者制度)、公共スポーツ施設の経営に乗り出すフィットネスクラブも出てきている。

 2005年にはフィットネスクラブの市場規模は3,857億円、事業所数は1,881でそのうち会社形態のものは1,582社となっている。大手企業上位10社のシェアが6割近くに上る一方(表)、地域の独立系小規模事業者も多い。

 2007年からは景気後退とともに業界全体の売上高もマイナスに転じ、人口に対するフィットネスクラブへの加入率もここ数年は伸び悩んでいる。特に女性に対してはスパやエステティック、自宅でできるDVDソフト(ビリーズ・ブートキャンプ!)やゲーム(Wii Fit)など、フィットネスクラブと競合するサービスが増えていることも影響しているようだ。とはいえ人々の健康意識は年々高まっており、中長期的には成長産業と考えられている。

新卒・正社員のキャリアは“現場”からスタート

 経済産業省の「平成17年特定サービス産業実態調査」によると、2005年にはフィットネスクラブにおけるフルタイムのスタッフ数は1万3,800人、パートタイムのスタッフ数は4万5,240人だった。つまり、少数の正社員が多数のアルバイトやフリーのインストラクターをまとめて店舗を経営し、さらに少数の正社員が本社・本部の業務を行っているという図式だ。新卒の正社員としてフィットネスクラブに入社した場合、たいていはまず現場のクラブに配属され、事務や接客、営業、トレーナー、インストラクターなど複数の業務をこなす。その後順調にいけばサブマネージャーを経てマネージャーへと昇格し、一部は本社・本部に異動して営業統括、店舗開発、施設維持、マーケティング、広報宣伝、教育・プログラム開発、人事・総務などの仕事sに就く(注1)。このうち店舗開発の業務はやや特殊性が高く、「不動産開発や建築設備、マーケットリサーチ等の知識を持ち、その分野で相応のキャリアを積んだ者がなるケース」や「ゼネコンやサービス・流通店舗の開発を担当していた者が、中途入社して就くケースも多い」(注1)という。

 古屋氏はフィットネス業界におけるキャリア形成のポイントとして、20代のうちに宅建や中小企業診断士といった経営に関する資格を取得したり、経営について学ぶことを勧めている。述べたように、フィットネス企業でのキャリアは、最終的にはクラブの経営サイドに回ることになる。トレーナーやインストラクターとしてやっていきたいという人でも、経営者と共通の言語を持っていれば、コミュニケーションがスムースに取れ、現場の仕事がやりやすくなるという。

アルバイトを通じて求められる人材像を体感

 経済産業省の「平成16年人材ニーズ調査」によると、フィットネスクラブの社員の年齢構成は、29歳以下が46%(全業種平均18%)と若い人が圧倒的に多い。また正規社員の新卒採用をしているという企業が58%(全業種平均3.9%)、中途採用をしているという企業が44%(全業種平均16%)で、景気等による変動はあるが比較的採用意欲の高い業界と言える。また、新卒採用している企業の90%が大卒者を採用している(全業種平均4.1%)。一方、中途採用の正規社員または契約社員を採用する際、実務経験を求める企業は19%(全業種平均51%)、資格が必要という企業は6.8%(全業種平均55%)と、実務経験や資格はあまり重視されていない。

 古屋氏は、フィットネス業界への就職を志すのであれば、ぜひ学生のうちからフィットネスクラブのアルバイトをして業務を経験することを勧めている。クラブでバイトしていればクラブや業界の内部事情や採用情報などの情報を得やすいし、クラブが求める人材というのは頭で理解するのは難しく、アルバイトしてその人材像を「体感」しておくことが重要だという。

 一方、就職に際して、学生時代のスポーツ経験や、運動生理学・トレーニング理論などを学んだかどうかということはあまり関係ないようだ(もちろん履修しておくにこしたことはない)。ただ古屋氏は、やはり学生のうちに経営について学んでおくことを勧めている。それはすべに述べたように、フィットネス業界でキャリアを重ねる上で重要な基礎になるからだ。