【スポーツ興行団】リーグ主導の経営とスタジアムビジネスがトレンド/江戸川大学社会学部経営社会学科・准教授 澤井和彦

2008年11月24日

リーグ主導の経営とスタジアムビジネス

 スポーツ興行団の業務は、選手契約やチーム強化などを行う「チーム運営」(いわゆる「現場」)と、総務や人事、財務などを行う「管理」、チケット販売、スポンサー営業などを行う「営業」、「競技運営」(いわゆる「フロント」)に分かれる(1)。一般的には1つの企業がこれらすべての業務をこなす場合が多いが、福岡ソフトバンクホークスでは(株)福岡ソフトバンクホークスがチーム運営と競技運営を、ソフトバンクホークスマーケティング(株)がチケット販売やスポンサー営業、スタジアム経営を行うというように、それぞれ別会社が業務を担当している。

 また、スポーツ興行団のビジネスの大きな特徴は、対戦相手となる他の興行団と競技において「競争」しつつ、興行では「協働」する関係にあるということである。つまり、スポーツ興行団のビジネスは、他の興行団やリーグ統括組織との関係を含めて考える必要がある。たとえば、一般にスポーツ興行団の収入の柱は「入場料」「スポンサー料」「放映権料」「商品化権料(マーチャンダイジング)」の4つであるが、近年は興行による収入の多くをリーグ統括組織に集中してから各クラブに再分配するというのがトレンド(流行)になっている。スポンサー料や放映権料などはリーグが一括した方が有利な契約を結びやすいし、クラブ間の収入格差を調整することで戦力を均衡させ、よりエキサイティングな試合を演出できる(※2)。

 スポーツ興行団のビジネスのもう一つのトレンドは、興行と同時にフランチャイズとするスポーツ興行場(スタジアムやアリーナ)の経営も行うことである。たとえば企業のホスピタリティ(接待)用に飲食のできるボックス席やラウンジを備えた付加価値の高い観戦パッケージを提供したり、会場や敷地内にイベントブースやミュージアム(記念館)を設置したりして興行との相乗効果で収益の増大を図っている。あるいは、試合のない日にも他の競技やコンサート、展示会などのイベントに施設を貸与するなどして収益を挙げ、成績による変動リスクの大きいスポーツ興行団の経営を安定化させる目的もある。

 グラフをみると、こうした「リーグ主導の経営」と「スタジアムビジネス」を実践している北米のプロスポーツリーグやイングランドのプレミアリーグの収益性が、非常に高いことがわかる。わが国では福岡ソフトバンクホークスや千葉ロッテマリーンズ、楽天ゴールデンイーグルスなどが興行と興行場を一体化したビジネスに取り組んでいる。

■各国スポーツリーグにおけるクラブあたりの年間収入

各国スポーツリーグにおけるクラブあたりの年間収入

出典:次の資料を元に著者作成

  • 北米:Forbes(2006~2007)
  • 欧州:Deloitte"Annual Review of Football Finance"(2007)
  • 日本:NPB 大坪正則『プロ野球は崩壊する』朝日新聞社(2004)/Jリーグ Jリーグ公式HP「2006年度クラブ個別経営情報開示資料」
  • 注:リーグ名のあとの( )内の数字は所属クラブ数。

中途採用が主流

 そもそもわが国のプロスポーツの興行団は、プロ野球12球団、Jリーグ33クラブのほか、バスケットボールや野球の独立リーグ、相撲、プロレスなどわずかしかない。また「企業スポーツ」は学校の運動部と同じで一般に「就職」はできない。バスケットボールの日本リーグは将来的なプロ化を表明してはいるが、スポーツ興行団と呼べるのは8クラブ中2クラブ(レラカムイ北海道と栃木ブレックス)だけである。こうしてみると、スポーツ興行団というのはかなり少ないということがわかるだろう。

 また本誌調査によれば、プロ野球球団の従業員数が平均156人(正規社員約78人、非正規社員約78人)、Jリーグクラブは平均21人(正規社員13人、非正規社員8人)となっているように、ほとんどが中小企業である。一般に中小企業は新卒を採用して人材育成する余裕がないため、即戦力の中途採用に依存することが多い。実際、スポーツ興行団で定期的な新卒採用を行っている団体はほとんどなく、本誌が確認できたのは読売ジャイアンツとソフトバンクホークスマーケティング(株)だけである。

 とはいってもどの団体も人材は不足気味で、人員を増強したいと考えているクラブは多い。また、経営規模の小さなクラブではクラブのホームページのみで公募したり、友人や知人、社員の紹介、親会社からの出向などに頼っているところも多い。人材不足のクラブではボランティアやインターンを募集するところも多く、インターンから正社員を採用したと回答したクラブもあった。

 しかし、千葉ロッテマリーンズ営業本部長の荒木氏は、新卒でいきなり歴史の浅い中小企業に入るより、できるだけいい会社(必ずしも大企業とは限らない)でビジネススキルを身につけてからスポーツ興行団への転職を考えるべきだと言っている(3)。一般企業でしっかり働きながら週末にボランティアでスポーツ興行団をサポートする、あるいはセミナーや大学院などで学びながら情報収集しつつ、コネをつくりつつチャンスをうかがう、といったことも考えられるかもしれない。本誌調査でも、スポーツ興行団が採用の際に評価するポイントとして、「大学専門学校等でスポーツビジネスやマネジメントを学んだ」や、「当該業界でのインターンシップ経験がある」が、「語学力」の次に高い評価を与えられていた。近年、スポーツビジネス関係の社会人向けの大学院を設置する大学も現れ始めているし、学会やセミナーなど働きながら学ぶ場も増えてきている。スポビズ.netには、スポーツビジネス、スポーツマネジメントを学べる大学院のリストが掲載されているので参考にしてほしい。