世界に示せ、東京スタイル

2006年からオリンピックの招致活動に携わって、まず感じたのは「強化活動以上に多様な人々が力を合わせないと成り立たない活動だ」ということでした。現在、東京オリンピック・パラリンピック招致委員会には70人ほどのメンバーがいますが、そのすべてが東京都の職員というわけではなく、約半数が外部からの協力人員です。またもちろん、委員会のメンバー以外にも外部の協力企業・団体の力添えも欠かせません。なにしろ私たちが目指しているのは、「日本だからこそできる、新しいオリンピック」です。皆で一致団結して世界に誇れる日本の姿を見せなければならないわけですから、力も入ります。
「日本だからこそできる」というのは大げさな表現ではありません。東京という都市は世界で初めて3000万人規模の都市圏人口(郊外都市も含んだ都市圏の人口)年を抱えた大都市です。そのため、今、世界中で注目されている環境保全や都市への人口集中といった問題なども、いち早く体験してきましたし、その分、そうした大都市問題への対処も進んでいます。たとえば水に関しては、活性炭を利用した浄水処理をいち早く実現し、使用済みの活性炭を燃やしてエネルギーに変える、ムダのないシステムを構築しています。情報基盤も、新世代ブロードバンドへの対応度では世界一です。東京の強みはすなわち、日本という国がもつ強みです。2016年のオリンピックは、こうした東京スタイルを世界に発信することで、都市の理想像を示すと同時に、日本の良さを世界に知ってもらう最高のチャンスなのです。
東京五輪で"allwin"
また、国内の人にとっても、2002年のFIFAワールドカップで感じた情熱・パッションを再び味わう最高のチャンスです。7年前に日本中の老若男女が、文字通りひとつになって、皆で大会を盛り上げ成功に導きました。他国から訪日したサポーターや選手関係者の皆さんと草の根で交流を行い、多くの人がスポーツ、サッカーのもつ魅力を肌で感じたことでしょう。2016年に私たちは、あの時と同じ情熱を皆で共有するチャンスがあるのです。
もう一つ、ビジネス面でも2兆8000〜9000億円ほどの経済効果が見込まれています。開催に対する税金の投入を疑問視する声もありますが、オリンピック開催で経済活動が刺激され、多くの人が東京を訪れることによって、税収のリターンも2000〜3000億円程度あると見込んでいます。事実、今日のスポーツイベントでは税収のリターンが非常に注目を集めており、一昨年、フランスで開催されたラグビーのワールドカップでは、フランス政府は90億円の税金を投入し、1400〜1500億円のリターンを得たといわれています。ロンドン・オリンピックの試算も同様です。
日本経済が活性化すれば、近年、外国に流れてしまった投資資金も日本に戻るでしょうし、アジア経済のハブとしての機能を果たすことで、世界経済へも大きなプラスの効果が期待できます。昨年来の経済危機による傷跡が比較的浅く、なおかつ世界有数の大都市圏として最先端の経験を数多く重ねてきた東京。この世界有数の大都市でのオリンピックが実現することによって、日本・アジア・世界が「allwin」の関係で結ばれることになるでしょう。
《 スポビズ・リーダーに聞く 》東京オリンピック・パラリンピック招致委員会事務総長
河野一郎
- (1)さまざまな角度からスポーツ支援に尽力
- (2)オリンピック招致をスポーツ変革の力に
- (3)東京オリンピックが世界経済に及ぼす効果
- (4)好奇心をもって取り組みチャンスをつかむ