キーマンインタビュー

スポーツが日本社会を活性化する鍵となる。

元国民スポーツ担当大臣 麻生太郎

●プロフィール●
1940年生まれ。63年、学習院大学卒業。66年、麻生産業入社、73年、麻生セメント代表取締役社長に就任。78年、日本青年会議所会頭。79年衆議院議員に当選、以降当選9回。経済企画庁長官、経済財政担当大臣、総務大臣、外務大臣、自由民主党幹事長を歴任。2008年、第92代内閣総理大臣。

(3)「国民」という観点からスポーツをとらえ直す

 小泉内閣の際、私は総務大臣との兼任で「国民スポーツ担当大臣」を務めました。残念ながら、就任時も退任時も世間的には大きな注目を集めることはありませんでしたが、これは史上初の「スポーツ専任」大臣というポストでした。なぜ「国民スポーツ」を文部科学省の管轄外に置いたのか、この点について説明しましょう。 スポーツの教育的な価値・機能については述べてきたとおりですが、スポーツには今日の社会に対して提供できるさまざまな価値・機能がほかにもあります。

 第一に「健康」。日本社会は今後ますます高齢化が進みます。高齢者の医療費の問題は、社会全体にとって大きな課題になりつつあります。必然的に、今までの事後治療から、予防医療へのシフトに真剣に取り組まなければならない。つまり、日ごろの健康維持が大切だということで、スポーツの出番が待っています。この「健康問題」は厚生労働省の管轄です。

 次に、「地域振興」。2007年にはJリーグの浦和レッズがアジアのクラブチャンピオンになり、FIFAクラブワールドカップでも3位になって、大いに盛り上がりました。そして、地元の浦和がレッズによってどれだけ盛り上がっているかは、すでに日本中の人が知っている。それ以外にも「新潟のアルビレックス」や、野球でいえば「北海道の日本ハム」や「千葉のロッテ」などなど……。ほかの地域の方はうらやましく思うことでしょう。現在、「Jリーグ入り」を目指しているチームは、日本全国で数十あると聞きます。野球の独立リーグも増えているし、バスケットのbjリーグに加盟を希望するチームも増えている。とはいえ、スポーツによる「地域振興」は、本来は総務省として対応すべき問題です。

 一方、例えばクラブやチームの経営という観点からは、どうしても経済的な視点が必要になる。つまり、スポーツ興行というサービス産業をどう振興していくのか。これは明らかに経済産業省が扱うべき領域です。これだけの経済成長を果たし、国民の生活レベルも世界のトップレベルになってしまうと、今後、日本経済の中心は第三次産業にシフトせざるを得なくなります。ところが、第三次産業の生産性は先進国の平均より低い。スポーツ関連のサービス産業の生産性を高めることは、国内における雇用を確保するうえでも重要な課題だといえるでしょう。 このようにざっと考えただけでも、スポーツが担える機能には、教育的な面以外にも重要なものが数多くあります。しかし、既存の縦割り行政では、スポーツは文部科学省の管轄となっています。この壁を越えるためには、「国民」という観点からスポーツをとらえ直すしかないということで、「国民スポーツ担当」となったのです。本当は、単に「スポーツ担当」でよかったのでしょうが。